2017年08月08日

働きながら認知症の方を介護するとき

東大阪・布施の女性専用鍼灸マッサージ
にゃんこ鍼灸治療室です。
ご覧いただきありがとうございます。
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体と心はつながっているということについて、これまで度々触れてまいりました。

このことは近年いろんな場面で触れられています。

介護の現場においても、
介護をする方の肉体面だけでなく、
精神面も合わせての健康を考えるようになってきました。

本日は、介護する方の心の健康についての研究をご紹介します。




もしも、ご家族が認知症になったら。

そして、在宅で介護することになったら。

さらに、働きながらという状況になったら。

どのように毎日を過ごしていかれますか。




【働きながらの在宅介護】
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現在、在宅介護をしながら、
毎日の時間を懸命にやりくりしておられる方も多いと思います。

決して
「優しさから」
なんて言葉だけでは向き合えないのが介護です。

もしも介護が必要になった方が、お年を召して認知症を発症されている場合、その負担はさらに増します。

認知症の場合は症状が進むにつれて、
・日常生活がままならない
・意思の疎通が出来なくなる
などが起こり、
家族なのに誰かわからなくなるといった、介護する側がショックを受けるような状況も起こり得ます。

また在宅で介護をする場合には専門的な知識も必要となり、肉体的な大変さ以上に精神的な負担も大きくなります。

このような精神的な負担は、病気やケガなどによる看病や認知症ではない方の介護よりも大きいといわれています。

働きながら介護をする方が、その負担にどう対処し、心の健康を保っていくのかということを研究する分野があります。

〈へぇ〉
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働き盛りの世代も介護に向き合うことが増えている現代では、仕事をしながら介護する方の割合は非常に多くなっています。

その場合のストレスは、単に介護上のことだけではなく、介護と仕事の板挟みという状況の中で、新たに派生してくるストレスも含まれてきます。

こうした事情を踏まえると、介護の質をどうやって高めるかだけに重点を置いた、これまでの心理的支援だけでは足りないのではないかと日々研究を重ねている先生がおられます。

明治学院大学 心理学部 心理学科の森本浩志先生です。


先日の
「第14回 日本うつ病学会総会」
「第17回 日本認知療法・認知行動療法学会」合同学会で、
こんな発表をされていました。

『認知症高齢者の家族介護者の役割間葛藤の緩和要因
ー介護に対する自己効力感の緩衝効果ー』
森本浩志・古田伸夫・河野光慧・壁谷眞由美 明治学院大学心理学部・浴風会病院・牧田総合病院)


わっ、題名にはちょっと?な専門用語がありますねたらーっ(汗)

・「役割間葛藤」?
私たちは、会社で、家庭でというように環境に応じてある役割をこなしています。(上司・部下として、父として、夫としてなど)
多くの方は複数の役割を同時にこなしています。
その役割に応じた行動を複数同時にとらなければならないという環境は、立場が異なれば果たす役割や負担が違い、その調整にズレが起きて葛藤を抱えます。
一つの役割で求められることによって、もう一方の役割の達成を邪魔するという葛藤です。
例えば介護においては、
・介護があることで仕事に支障が出る
・仕事があることで思うように介護ができない
といったことです。

・「自己効力感」?
自分に対する信頼感や有能感を指します。
「自分ならできる」
「できるのでは」
というイメージを自分に対して持てるかどうかは、ある状況に直面したときに行動する上で、とても重要なことなのです。
これを高めることが、何かをするときのやりとげる力になります。

これについてお伝えする前に、
これまでの研究をみてみましょう。



【これまでの研究】

これまで、介護に関するストレスにについての研究は、仕事を持つ方が介護する上でどんな困難があるかを聞くことが主で、それにたいする対処法を考え介護する力を高めるということに重点が置かれていました。

主に注目されていたのは
・介護が仕事に与える影響
・仕事が介護に与える影響
の2点です。

しかし実際には、もっとたくさんの関係性と困難の種類があります。

そこで、
・働きながら認知症の方を在宅で介護するときに起きる役割間葛藤にはどんなことがあるか
・それに対して経験のある人はどんな工夫をしているか
・どういうことがストレス軽減や生活の質の向上につながるのか
ということを明らかにし、ストレスを管理して支えるプログラムを作り実用化していくための研究が進められてきました。

それが、働きながら認知症高齢者を介護しておられる家族が経験する役割間葛藤というものを測定する尺度の作成です。

この尺度によって心の健康を支えるために何が必要かもっと明確にすることができます。



では、役割間葛藤にはどんなものがあるかみてみましょう。

仕事をしながら介護に向き合うとき、
私たちは
仕事・介護・家庭生活
の3つの顔を持つことになります。

それぞれの場面で役割に応じて使い分けをし、調整しながら日々を送ることになるわけですが、異なる顔と顔の間、つまり役割と役割のはざまで、いろんな問題が起きてきます。

そんなとき抱える葛藤は3つのカテゴリーに分けられます。
1.介護が仕事に与える影響
2.仕事が介護に与える影響
3.仕事と介護両方から私生活に与える影響

具体的には,次のようなストレスがあります。

1.介護が仕事に与える影響については、
1-1.介護に費やす時間や負担の影響により仕事に制約がおきてしまうという葛藤
(例)介護があるから仕事を減らさなければならない
1-2.介護のことが気になって、仕事に集中できないという葛藤
(例)仕事中も介護されている方のことが気になって集中できない
1-3.介護で求められる行動が仕事に影響するという葛藤
(例)デイサービスの送迎時間と出勤時間が合わない

2.仕事が介護に与える影響
(例)会社や職場は介護に対して理解してくれない

3.仕事と介護両方から私生活に与える影響
(例)介護と仕事で自分の休みがない

経験されている方にとっては、まさに「あるある」ですね。



そしてこれらのストレスに対しての対処行動としては、次のようなものが挙げられます。

@家族や友人にサポートを求める
(例)話を聞いてもらう

A専門機関にサポートを求める
(例)主治医やケアマネージャーに相談する

B職場にサポートを求める
(例)仕事を調整してもらえるようお願いする

C介護内容の工夫
(例)本人が出来ることはやってもらう
安全な家具、家電、導線の導入

D自分の考え方を工夫
(例)現状を仕方ないことととらえる(親だから、今はこうするしかない、など)

E介護に関わる時間や負担の調整
(例)仕事を減らす、辞める

F気晴らしや休息
(例)休めるときに休む

これらは介護する上での一般的な対処法としても広まっていますね。



さらに、
介護に対するイメージはまだまだマイナス面ばかりが先立ちますが、先生の研究ではマイナス面だけをクローズアップするのではなく、プラス面にも目を向けられています。

仕事と介護の間の葛藤では、
仕事があるから思うように介護に取り組めない
ということが挙げられ、これはマイナス面です。

しかしこの状況は、介護の現場から離れるということでもあります。

この「離れている」ということが、介護する方のストレスを和らげているという側面もあるのです。

・仕事があるからがんばれる
・仕事があるから孤独にならない
・仕事があるから介護から離れることが出来る
という、心と体の健康に役立っているところもあります。

仕事と介護の両立が精神的に悪影響しか与えず、役割の数だけがストレス要因ではないのです。



【今回の研究】

今回学会で発表されていた研究では、
役割間葛藤を緩和する要因として『自己効力感』に着目しておられます。

介護においての「自分ならできる」という自己効力感は、
それがあることで精神的な健康への悪影響を緩和するといわれています。

ですから
自己効力感を高めることは、介護をしている方の負担の軽減や精神的な健康の向上につながります。

しかし「自分ならできる」という自己効力感が高い方は、ストレスがかかる状況ほどがんばり、またやり通すことを自分との約束として課してしまいます。

その結果、
介護に積極的に取り組むことは即ち介護負担を増やすことになり、仕事や自分の私生活が犠牲になってしまうということも起きます。

自己効力感が高いことは確かに役割間葛藤のストレスを減らしますがそれだけではなく、忙しい中であっても役割間葛藤を減らすものには何があるかということも、これからは考える必要があるのです。


マイナス面もプラス面はいつも一緒にあり、ある側面だけみて結論づけることはできないのですね。

う〜〜〜む

難しい…



【今とこれからのために】
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認知症には種類があります。
また、どんな状態や経過を辿るかも個人差があります。

会話のやりとりが出来る時がある状態の方と、
意志の疎通も出来ず、身体機能にも不調が大きく寝たきりになっている方とでは、介護者の負担も大きく違います。

また、家族・親戚間や職場といった介護者を取り巻く環境によっても抱える葛藤は違います。

葛藤を減らせるような環境にしていくこと、
その方のおかれている状況に合わせたストレス管理をしていくことなど、
どのようにして心と体の健康を保っていくのかは大きな課題です。

データを集めることは、
各ご家庭の事情や個人の事情によって状況が違うため、大変厳しい分野です。

また、集めたデータが何を意味しその背景に何があるのか、誰もに当てはまるひとくくりの尺度へと簡単に分析できないものだとも感じます。

仕事と介護における役割間葛藤は、お家の事情をさらすようでなかなか人には言いづらいし伝えにくいものです。

働きながら介護をした経験のある方は、これまで感じてきた「あるある」なことが、形になって第三者にもわかりやすくなることで、心と体の健康への取り組みが変わります。

そしてそれは新たにこれから向き合う方の備えにもなり、もっと先には、在宅介護の形が変わることにつながります。


今後どのようなことがみえてくるのでしょう。

今渦中にいて、日々向き合っている方にはもどかしくもありますが、

あなたの状況について思いを巡らせている世界はちゃんとある

ということを知っていただけたらと思います。


☆今回学会で発表された研究論文は「Aging & Mental Health」誌に掲載されているそうです。
下記URLからご覧いただけます!
(論文は英語です)

http://dx.doi.org/10.1080/13607863.2017.1334192




【明日へむけて】
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さまざまな事情から在宅での介護を選ばれたことでしょう。

どんなに過酷であっても、
仕方なくであっても、
介護をする側もされる側も
与えられた時間は
その家族にしか味わえない“体験”の1ページです。

振り返れる時期になってからではなく、
少しでも今を安心して過ごしていくことができるように

医療には
患者さんだけでなく、
周りで関わるすべての人の健康のためにも進められている研究がある・・・、
そんな分野もあることを本日はご紹介いたしました。




鍼灸・マッサージの方向からできることを、にゃんこも考えてまいります。
ご意見・ご感想がございましたらどうぞメールフォームからお送りください。



〔参考文献〕
広島国際大学 最新連携事例・シーズ 心理学 HP 「認知症患者の在宅介護者の役割葛藤とその対処に関する研究」森本浩志 著

『広島国際大学心理科学部紀要』第2巻 第1号 15頁〜28頁 2014「認知症患者の家族介護者の役割葛藤の記述的検討」広島国際大学心理科学部臨床心理学科 森本浩志、浴風会病院 古田伸夫、浴風会病院 河野光慧、浴風会病院 壁谷眞由美 著

『広島国際大学心理学部紀要』第4巻 43頁〜52頁 2017.3.14出版「認知症患者の家族介護者の役割葛藤ー 介護者および被介護者の属性と関連」森本浩志、浴風会病院 古田伸夫、浴風会病院 河野光慧、浴風会病院 壁谷眞由美 著

公益社団法人 日本心理学会 機関誌『心理学研究 』2017 Vol.88 No.2 P.151〜161「認知症高齢者の家族介護者の役割間葛藤の測定」広島国際大学心理科学部臨床心理学科 森本浩志、浴風会病院 古田伸夫、浴風会病院 河野光慧、浴風会病院 壁谷眞由美 著



にゃんこ鍼灸治療室
平日10:00〜18:00(日祝休み)
http://www.nyankoshinkyu.com


posted by にゃんこ at 00:00 | TrackBack(0) | 身体の話
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